本連続コラムでは、レポート『持続可能なバイオマスプログラム:持続不可能なものを認証する』の主要な箇所を抜粋・転載して紹介していきます。初回は「エグゼクティブ・サマリー」より転載します。
【この記事の内容】
森林バイオマスは本当に“持続可能”か?
SBP認証が抱える構造的な利益相反と課題
気候目標の達成と化石燃料依存からの脱却を迫られるなか、多くの国が熱や電力用の代替エネルギー源として森林バイオマスに注目するようになった。バイオマスは現在、欧州連合(EU)、英国、日本、韓国のエネルギーミックスにおいてかなりの部分を占めている。
しかし、エネルギー利用のために木材を燃やすことは、すでに深刻な圧力にさらされている世界の生物多様性に富み炭素貯蔵量の多い森林の破壊を加速させている。気候・森林科学分野における数十年の研究により、大規模なバイオマス利用が、気候変動と生物多様性の喪失という二重の危機を悪化させることが明らかになっている。
高まる批判を受け、各国政府は自らが支援するバイオマスが「持続可能」であり、温室効果ガス(GHG)排出削減に寄与していることを示す証拠を求めるようになった。これに対しバイオマス業界は、エネルギー利用の木質ペレットや木質チップが持続可能な方法で調達されていることを保証する「サステナブル・バイオマス・プログラム(SBP)」を創設した。
しかし、SBPは規制対象となる業界が自ら開発した民間認証制度である。政府の補助金という強力な市場インセンティブに支えられており、業界を規制するのではなく促進することを目的としている。この構造的な利益相反により「骨抜き」にされた基準と表面的な適合メカニズムが生み出され、真の持続可能性からかけ離れた慣行を助長していることが、証拠によって示されている。
本報告書『持続可能なバイオマスプログラム:持続不可能なものを認証する』は、SBPの基準、方針、手続きの検証を通じて、同制度の主張を分析している。その結果、SBPがバイオマスを化石燃料に代わる気候に配慮した選択肢として描く手法が、いくつかの根拠において誤解を招くものであることを明らかにしている。
- SBPは森林管理の現地監査や伐採企業との直接的なエンゲージメントを行なわずにペレット工場や販売会社を認証している。
他の森林認証制度とは異なり、SBPは机上のリスク評価および、違法または明らかに許容できない調達源のみを検出する大まかなスクリーニングツールに頼っており、真に持続可能であるかどうかを確認することはできない。 - SBPは他の認証制度の信頼性を実態以上に見せかけている。
森林管理協議会(FSC)の「管理木材(Controlled Wood)」やPEFC森林認証制度相互承認プログラム(以下、PEFC)の「管理材(Controlled Sources)」を、完全な認証原料であるかのように扱っているが、実際にこれらの区分では最低限のリスク評価しか行われていない。
SBPはこの下位区分の木材を利用し、非認証林由来の木材が含まれていてもバイオマスのサプライチェーン全体を「持続可能」と表示し、結果として持続可能な森林管理(SFM)とみなされる基準を事実上引き下げている。
SBPはあらゆる供給源からの木材を受け入れ、「持続可能」と認証している
- SBPの気候影響に関する主張は、欠陥のある炭素会計に基づいている。
同制度では、木材燃焼による排出は数十年にわたる森林の再生によって相殺されると想定しており、パリ協定の目標達成に向けて2030年までに必要な緊急の排出削減を無視している。
SBPは炭素収支がマイナスとなる地域からの調達を認め、現地データではなく国家平均を使用することで、企業が炭素貯蔵量の多い森林の喪失を炭素の蓄積密度の低い地域での再生によって相殺することを可能にしている。 - SBPはバイオマス燃焼時の排出に対する軽減措置要件を設けず、その責任をエネルギー規制当局に委ねている。また、バイオマスは化石燃料よりもエネルギー単位あたりのCO2排出量が多いという事実を無視し、事業者が「カーボンニュートラル」を主張できるようにしている。
現行の炭素会計手法では、これらの排出を土地利用セクターにまで遡って追跡することができず、エネルギーセクターはバイオマス利用に伴う気候緩和コストの負担を回避している。 - SBPは「林地残材(forest residues)」を原則として低リスクとみなし、原生林に由来する場合であっても認証している。この枠組みではまた、実効性のある管理体制がないまま生産者が丸太を残材や副産物として分類することを容認しており、そのような調達が環境にあたえる損害を覆い隠している。
SBPは丸太をバイオマス燃料として使用することを認めている
- SBPは先住民族の権利への対応が不十分である。
協議の必要性は認めているものの、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」が得られていない場合でも認証を進め、先住民族の権利を事実上無視している。
こうした制度的欠陥を利用し、SBPは規制当局や電力事業者にとって報告要件を満たすための便利な手段となっている。非認証林由来の木材であっても書類上で低リスクとみなされる限り、バイオマス生産者は「持続可能性」を主張できる。しかし、森林の劣化もバイオマス燃焼による排出も正しく算定されず、気候影響に対する責任を誰も負わない「責任の空白」が生じている。
本報告書のパート2で取り上げるカナダ・ブリティッシュコロンビア州およびアルバータ州の事例は、こうした制度的欠陥が現地でどのように顕在化しているかを示している。
SBPはその名称に反して、バイオマス燃料の持続可能な調達を保証していない。他の持続可能性認証制度の基準や国際的なSFM基準を下回る業界慣行を是認し、森林バイオマスを再生可能エネルギー源とみなす認識を、政策決定者、投資家、一般市民の間で広めている。現実には、世界は現存する森林から既に過剰に資源を採取しており、搾取的なバイオエコノミー施策からのさらなる圧力は、気候や生物多様性に関する世界的目標の達成を頓挫させるおそれがある。
残された最後の森林を燃やすことは気候対策ではなく、より安全な未来への道を狭める危険な目くらましにすぎない。したがって、SBPは目的に適った制度ではない。
【連続コラム②】輸入木質ペレットの持続可能性は認証で確認できるのか?~SBPはペレット工場や販売会社を認証する制度である
【連続コラム】輸入木質ペレットの持続可能性は認証で確認できるのか?~③SBPは最低限のリスク評価しか行われていないものを、「持続可能」としている