バイオマス発電を
理解するための
キーワード集

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IPCC国家温室効果ガスインベントリガイドライン
温室効果ガスインベントリとは、「1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータ」のことで、国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が作成したガイドラインに基づいて毎年提出が求められている。2006年のガイドラインでは、木質バイオマスの燃焼によるCO2排出は、伐採・搬出された国の土地利用部門の炭素ストックの減少として計上し、実際に燃焼された「エネルギー部門」では情報項目として報告を求めるというアプローチが取られている。
欧州再生可能エネルギー指令(EU RED)
EU(欧州連合)の再生可能エネルギーの導入拡大目標を定め、目標に向けたEU諸国間の協力を支援する法律。2009年に最初の指令が発効し、2018年(REDII)、2023年(REDIII)に改正された。REDIIIは2030年までのEU全体の拘束的な再生可能エネルギー目標を少なくとも42.5%(45%を努力目標)に設定している。また、森林由来バイオマス燃料の持続可能性基準と排出削減要件が強化された。EUの法体系における「指令」とは、加盟国が達成しなければならない政策的目標を定めるもので、その目標達成に向けた法律・規制は各国が独自に制定する。
SBT(Science Based Targets)
WWF(世界自然保護基金)、CDP、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトによる共同イニシアティブが推進する、パリ協定が求める水準(1.5度目標)と整合した温室効果ガス排出削減目標のこと。GHGプロトコル同様、サプライチェーン全体での削減が求められる。GHGプロトコルと同様のアプローチで、バイオエネルギーの燃焼によるCO2排出の報告が求められている。
エンビバ(Enviva)社
米国南東部を中心に操業する世界最大の木質ペレット製造企業。2004年創業で、当初は英国Drax社や欧州の電力会社にペレットを供給。木材価格の高騰などにより収益が悪化し、2024年3月に破産申請、同年11月に再建計画が承認された。破産前は、2020年以降に、日本の大手商社、輸入バイオマス発電事業者、電源開発などとペレットの長期供給契約や覚書などを結んで、一部供給を開始していた。
GHGプロトコル
WRI(世界資源研究所)とWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)によって主に企業向けに開発された、温室効果ガス(GHG)の排出量を算定・報告し、削減の進捗を管理するための国際的な基準。以下のスコープ1~3に分けて、サプライチェーン全体での排出算定・計上を求める。
 スコープ1:企業が所有・管理する全ての排出源からの排出
 スコープ2:購入した電力、熱、蒸気などを企業が消費する際に発生する間接的な排出
 スコープ3:その他の間接的排出(企業が使用した原材料の採取、加工、輸送から生じる排出等)
バイオマスの燃焼によるCO2排出はスコープ1~3の外で算定・報告することが求められている。
事業計画策定ガイドライン
FIT制度において、発電事業に新規に参入した事業者の環境・社会面で適切で安全な開発・操業を確保するため、2016 年の法改正により、発電方法ごとに策定されたガイドラインのこと。FIT認定を受けるためには、各ガイドラインの遵守が求められ、違反時には改善命令や認定取り消しを行うことが可能とされる。

バイオマス発電については、これまでの改訂で、燃料の持続可能性・合法性、安定調達の確保、GHG排出の削減、トレーサビリティの確認などが認定要件として加えられたが、どれも不十分なもので課題の根本解決にはつながっていない。また、特に燃料生産地が海外である場合はガイドライン遵守状況の確認が困難であり、不遵守の指摘があっても実態の確認が行われていないことが懸念される。
CDP
英国を拠点とする非営利の国際団体で、企業や自治体などの事業活動による環境影響の自主的開示をためのプラットフォームを運営している。世界中の大手企業を中心に、気候、水、森林分野について毎年回答要請が送られる。気候変動分野の質問において、バイオマス燃焼によるCO2排出量の回答が求められている。
人工林と植林
植林とは、木材生産や森林の保全を目的に山野に苗木を植えること。植林によってつくられた森林を人工林という。日本では主にスギ、ヒノキなどの針葉樹が植林され、当初の3000本/haから数年ごとに間伐で密度を落としていくことが多い。人工林は一般的に単一樹種で単層構造であるため、多様な樹種が混在し階層構造を持つ自然林に比べると生物多様性や炭素蓄積は少なくなる。

ペレット輸入元1位のベトナムでは日本向けペレットのほとんどがアカシアの植林木を原料に生産されている。カナダでは、原生林を皆伐(一定面積の土地の木を全て一斉に切ること)し、単一樹種の一斉植林が行われており、生物多様性・炭素蓄積の損失が大きい。
天然林と原生林
人が植えたのではなく、自然に成立した森林が天然林。日本では天然林の中でも古くて極相に達した森林を原生林と呼ぶことが多いが、カナダでは原生林とは、「樹齢にかかわらず、人間の産業活動により改変されたことがない自然林」と定義される。原生林は風倒、火災、虫害、病気などの自然かく乱によって天然更新する。多様な樹種が階層構造を作っており、生物多様性が豊かで、地上部と地下双方での炭素蓄積の価値が高い。
ドラックス(Drax)社
英国の元大手石炭発電事業者。同国の脱石炭政策のもと、2010年代前半に発電燃料の石炭からバイオマスへの転換を開始し、現在ノースヨークシャ―にある同国最大のバイオマス発電所を運転している。この発電所は2023年の英国における最大のGHG排出源(バイオマス燃焼によるCO2を考慮)で、英国の全排出量の2.9%を排出した。燃料は北米などからの輸入木質ペレットを利用している。米国南東部やカナダでのペレット生産事業にも進出しており、生産量は世界第2位。アメリカとカナダで18のペレット工場を稼働させ、カナダ・ブリティッシュコロンビア州ではペレット生産能力の6割近くを保有している。2022年に日本法人を設立し、日本を主要なペレット市場と位置付けている。
熱電併給
火力発電で燃料を燃焼する際に発生した排熱を回収して、温水、暖房、工場の熱に利用すること。木質バイオマス発電の場合は、発電のみの場合はエネルギー効率が20~30%と低いのに対し、熱電併給では60~80%の効率が可能になる。FITバイオマスでは、熱電併給が認定の要件になっておらず、優遇もされていないため、多くの発電所で熱を冷却して捨てているのが現状である。
パーム核殻(PKS)
アブラヤシの種の殻(Palm Kernel Shell)のこと。アブラヤシ(Oil Palm)は実からパーム油が、種の中身(胚乳)からパーム核油が採れ、1つの植物から性質の異なる2種類の油が採れる珍しい植物。PKSは油分を豊富に含む農産物残さで燃料以外の用途は今のところないが、生産地でもパーム油搾油工場などの燃料として使用されている。日本が輸入する木質バイオマス燃料の約半分がPKSである。日本の港や発電所敷地内で野積みにされていることがあるが、長期間野外に置くと発酵して悪臭を放つことがある。
木質バイオマス
バイオマスとは生物由来の再生可能な有機性資源(化石燃料を除く)のことで、そのうち木材に由来するものを「木質バイオマス」という。「一般木質バイオマス」はFIT制度における燃料種別の一つであり、正式には「一般木質バイオマス・農産物の収穫に伴って生じるバイオマス固体燃料」という。一般木質には、製材端材、輸入材等が含まれるが、実際に大量に使われているのは輸入木材である。輸入木材については、「発電利用に供する木質バイオマスの証明のためのガイドライン」(林野庁)に基づく由来の証明が求められており、それが無いものについては、「建設資材廃棄物(電力買取価格13円)として取り扱う」ことになっている。
木質ペレット
木材を破砕して粉状にし、乾燥・圧縮して直径6-8mmの円柱形に固めたもの。従来はペレットストーブなどの燃料として熱利用されていたが、FITの支援によりバイオマス発電向けに大量に輸入されるようになった。日本の輸入木質バイオマス燃料の約半分が木質ペレットである。木質チップ(木材を切削または破砕した小片)と比べて重量あたりの体積が小さくなるため、海外から輸入される場合は通常はペレットである。ただし吸湿しやすいため、微生物による発酵が進むことで発熱したり、粉塵が出やすいため密閉空間では粉塵爆発を引き起こしたり、取り扱いには知識と注意が必要となる。
未利用木質バイオマス
FIT制度における燃料種別の一つで、「間伐材」または「それ以外の方法により伐採された木材」と定められている(林野庁)。間伐材とは植林された人工林の健全な育成のために、密度調整で間引いた木材や、生育不良の樹木を取り除く除伐により得られたもので、森林管理を主目的として伐採された木材のこと。「それ以外の方法」とはすなわち主伐(木材の収穫を目的とする伐採)による木材。FIT制度の「未利用材」に主伐材が含まれていることはあまり認識されていない。国内林業での伐採・集材過程に係るコストが高いことに配慮して、FITバイオマスの中で最も高い買取価格(2000㎾未満40円/kWh)が設定されている。
ライフサイクル温室効果ガス(LCA-GHG)
商品やサービスの原料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの全工程(ライフサイクル)で発生する温室効果ガス(GHG)を言う。再エネに関しても「発電時にGHGを出さない」だけでなく、ライフサイクル全体で削減効果が必要。FITバイオマスの事業計画策定ガイドラインでLCA-GHG削減基準を定めているが、バイオマス燃焼によるCO2排出をゼロと扱っている点が問題である。
林野庁「合法性ガイドライン」
違法伐採対策の一環で、木材・木材製品の供給者が合法性、持続可能性の証明に取り組むに当たって留意すべき事項等をまとめたもので、正式名称は「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(2006年策定)。FIT輸入木質バイオマスの事業計画策定ガイドラインでは、第三者認証による燃料の持続可能性(合法性)確認を求めてきたが、その証明方法の参照先として「合法性ガイドライン」を位置付けている。
しかし、このガイドラインでは、証明方法として第三者認証以外にも「森林・林業・木材産業関係団体の認定を得て事業者が⾏う証明⽅法」(団体認定)や「個別企業等の独自の取組による証明方法」(個別企業の取り組み)を認めており、厳格な持続可能性の確保が担保されていない点が問題である。