問題を知る
FIT制度の課題

押さえておきたいポイント
FIT制度とは
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)は2012年に日本に導入され、再エネで発電された電気を、電力会社が一定期間(バイオマスの場合は20年間)、一定価格で買い取ることを国が保証する仕組みです。買取費用は「FIT再エネ賦課金」として電気料金に上乗せされるかたちで、電力消費者が負担しています。バイオマス発電は、太陽光、風力、水力、地熱と共にFITの対象として推進されてきました。
2016年の法改正により、発電方法ごとに「事業計画策定ガイドライン」が策定されました。FIT認定を受けるには、各ガイドラインの遵守が求められ、違反時には改善命令や認定取り消しが可能です。
バイオマス発電については、これまでの改訂で燃料の持続可能性・合法性、安定調達の確保、温室効果ガス(GHG)排出削減などが認定要件として追加されました。しかし、バイオマス発電の課題の根本的な解決には結びついていません。


持続可能性が不明瞭なガイドライン
FIT制度における「事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)」(以下ガイドライン)では、輸入木質バイオマス発電の燃料には「森林認証」の取得が求められています[1]。その参照先である林野庁「合法木材ガイドライン(2006年)」では合法性および持続可能性の確認方法として以下の3つが認められています。
1)「森林認証」
2)業界団体による「団体認定」
3)「企業独自の取組」(自己宣言)
1)は第三者が木材生産の持続可能性を担保する国際的な取り組みです。一方、2)は木材の合法性のみを確認する方法、3)は企業各社が独自に基準を設ける方法のため、海外生産地で持続可能性の確認ができる方法とは言えません[2]。そのような方法がFITでは認められているのです。
輸入木質バイオマスの場合、発電時だけではなく、燃料の生産・加工・輸送時にも温室効果ガス(GHG)を排出します。そこで、ガイドラインでは燃料のサプライチェーン全体におけるライフサイクルGHG排出量を算定・申告し、基準値[3]を下回ることを求めています。しかし、この基準の適用対象は2022年以降に新規認定される発電所のみで、大型の発電所はほぼ含まれていません。さらにFIT制度では、ライフサイクルGHG排出量のうち、最も排出が多い燃焼時のCO2排出量を0としているため、この基準にはほとんど意味がありません。
現在のFITバイオマスガイドラインは、持続可能性の担保方法として求めているのが第三者による森林認証なのか、合法性確認のみなのかも曖昧な状況であり、実態としては森林認証だけでなく団体認定や自己宣言といった方法も利用されています。また、第三者による認証であっても、制度的な課題は多数指摘されており、持続可能性の確認方法として認証があれば安心とは言えません[2]。課題が指摘・認識された場合は自社でリスクの確認を行うデューデリジェンスの実施が求められます。
[1]事業計画策定ガイドライン(バイオマス)では、持続可能性・合法性の証明方法として以下のように記述。
森林認証制度及びCoC認証制度等における認証が必要であるが、詳細は林野庁「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」を参照すること。
[2]合法木材ガイドラインは合法性確認システムとしての不十分さが指摘され、合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(通称「クリーンウッド法」2016年成立)という新しい法律による木材の合法性確認の仕組みが導入された。
[3]2030年までは化石燃料比50%減、30年以降は70%減を基準とした。


FITの目的と整合しない
FITの目的として、以下の点が挙げられています。
- -エネルギーの安定的かつ適切な供給の確保及びエネルギーの供給に係る環境負荷の低減
- -国際競争力の強化及び国内産業の振興
- -地域の活性化その他国民経済の健全な発展
木質バイオマス発電の場合、運転コストの7割が燃料費であり、輸入燃料ではその費用が海外に流出し、日本国内の林業・地域経済の活性化につながりません。また近年の円安、燃料費・輸送コストの高騰などで燃料の調達価格が上昇しています。そのため、FITの支援を受けても採算が合わず稼働停止に追い込まれたバイオマス発電所も出てくるなど、エネルギーの安定供給にも課題があります。
燃料代が高コストであることに加え、バイオマス発電のエネルギー転換効率は極めて低い(20~30%)ため、事業継続がFITの補助金に依存しており、多くの場合将来的な電源としての自立性がありません。 そのため、輸入に依存する大型バイオマス発電所の多くが事業期間を20年間としており、「買取期間終了と共に事業も終了する」と宣言しています。これではエネルギーの安定供給や自給率の向上にも貢献できません。
FITの調達価格・調達期間を決める資源エネルギー庁・調達価格等算定委員会(2024年11月)[4]でも、買取期間終了後の自立が難しく、稼働停止や化石火力発電へ移行する恐れが懸念されています。これは本来「再エネの自立支援」のために作られたFIT制度における矛盾であり、バイオマス発電が、太陽光や風力などの燃料を必要とせず、初期投資が高くてもランニングコストが低い他の再エネと大きく違う点です。
[4]第98回調達価格等算定委員会 資料3 バイオマス発電について

