【連続コラム】”バイオマスに投じられる巨額の資金:森林ではなく補助金を削減すべき理由”~③英国の政策動向
本連続コラムは、バイオエネルギーの問題に取り組む国際NGOネットワーク「バイオマス・アクション・ネットワーク」から出されたレポート “Burning Billions for Biomass-The case for cutting subsidies, not forests”(『バイオマスに投じられる巨額の資金:森林ではなく補助金を削減すべき理由』)から抜粋し、和訳・転載したものです。
バイオマス発電の再エネとしての支援の適切性を考えるにあたって重要な論点や、補助金の削減・廃止に向けた政策変更が見られる燃料消費国の事例を紹介していきます。第3回は、英国の事例を紹介します。
【この記事の内容】
●世界最大級のバイオマス消費国・英国の補助金の規模と変遷
●覆される政策変更~補助金期間の延長、エネルギー効率・温室効果ガス排出量基準の撤廃
●AIデータセンターへの電力供給のために、木質バイオマスの消費が増える恐れ
9.1 ケーススタディ:英国
執筆者:アルムス・エアンスティング(Biofuelwatch)
英国は、これまで、そして現在においても、世界最大のバイオマス補助国である。英国は、この極めて有害で高コストな技術を他国が利用する道を切り開いてきた。これまでにバイオエネルギーに費やされてきた数十億ポンドは、はるかに有効な用途に使うことができたはずである。
調査会社Trinomicsの分析によれば、もし6億ポンドのバイオマス補助金がエネルギー効率の向上に使われていれば、英国で最も寒い住宅40万戸以上を断熱することができたという。これにより、エネルギー料金の引き下げることができただろう。
英国会計検査院が2024年に公表した英国のバイオマス補助金に関する報告書によると、2002年から2023年までの間に、バイオマス発電および熱供給のために220億ポンドの補助金が支出され、そのうち161億ポンドが発電に充てられた。このうち65億ポンドはドラックス社に支払われている。約53億5千万ポンドは再生可能熱への補助に使われた。
これらの補助制度は2023年に新規申請を締め切ったが、家庭用の化石燃料ボイラーを更新するための新たな補助制度があり、ヒートポンプではなくバイオマスへの切り替えに利用できる。これの補助金額には、バイオマス発電が炭素価格の対象外とされていることによる間接的補助は含まれていない。
バイオマス発電への補助金の大部分は、「再生可能エネルギー義務(Renewables Obligation)」制度を通じて支払われてきた。この制度では、再生可能電力1MWh当たりに補助金が支払われ、木質バイオマスエネルギーが組み込まれている点については、議論の的となっている。
「再生可能エネルギー義務」制度は2017年に新規申請を終了した。補助金の水準は、市場に存在する「再生可能エネルギー義務証書」(ROC)の量に応じて決まり、近年急激に上昇している。2027年までは、世界最大のバイオマス発電所を運営するドラックス社が、2基の発電設備で木質ペレットの燃焼に対してROCを受け取り続ける。
2014年以降、再生可能電力事業者はROCの代わりに差額決済契約(Contracts for Difference:CfD)に応募できるようになり、2017年以降はこれが唯一の補助制度となった。CfDは政府が定めた基準に基づき、15年間の期間で付与される。一度CfDが付与されると、国有企業と発電事業者との間の私法上の契約となり、(理論上それが可能であったROCと異なり)政府は原則としてこれを撤回できない。
事業者は常に「ストライクプライス」と呼ばれる、単位発電量当たりの固定価格で支払いを受ける。この価格は通常、市場電力価格を大きく上回るが、2022~23年には電力価格が急騰したため、CfDは「逆補助」状態となり、事業者が返金を行うケースも生じた。その結果、ドラックス社やラインマウス発電所は、CfD対象となる発電設備の稼働を抑制した。
CfDは競争入札によって付与されるが、2014年の初回割当のみ例外であり、このときに輸入木質ペレットを燃焼する発電所向けのCfDが付与された。具体的には、ドラックス社の第3バイオマス発電機、ラインマウス発電所、MGTティーズサイドである。最初の2件のCfDは2027年に終了する。
大成功を収めた市民運動――残念ながら覆されつつある
長年にわたるバイオマス補助金への反対運動の結果、2018年、英国政府は歓迎すべき政策変更を発表した。今後、新たなバイオマス発電にCfDを付与するのは、少なくとも70%のエネルギー効率を持つ熱電併給の設備で燃焼される場合に限る、というものである。
さらに、温室効果ガスのライフサイクル排出量の上限が設定され、実質的には輸入木質ペレットが排除される水準となった(ただし、輸送や生産に係る化石燃料由来排出以外の排出はほとんど考慮されていない)。
英国では地域熱供給網への投資がほとんど行われていないため、この決定は新規バイオマス発電所がこれ以上ないことを意味し、2027年にはドラックス社やラインマウス発電所への補助も終了し、運転停止となるはずであった。
しかし2025年2月、政府は2027年以降、ドラックス社、そして場合によってはラインマウス発電所に対して、さらに4年間CfDを付与すると発表した。
ドラックス社が受け取ることになる補助金は、近年稼働させてきた発電容量の半分に限定されるものの、発電量当たりの補助額は現在より高くなる。また、2018年に設定されたエネルギー効率やライフサイクル温室効果ガス排出に関する基準は撤廃される。2025年9月時点では、実際の補助金付与はまだ決定されていない。
さらに憂慮すべきことに、2025年6月、政府は二次立法を通じて、今後、既存のすべてのバイオマス発電所に対し、議会での追加審議なしに、最長15年間の新たなCfDを認めることを可能にしようとしている。ここでも、2018年のエネルギー効率やライフサイクル温室効果ガス排出に関する条件に言及されていない。追加の4年間の補助期間が2031年に終了する後のドラックス社も、この措置の対象となる。
最後に、英国政府は、いわゆる「AI成長ゾーン」に対する補助金やその他の支援策として、データセンターの拡張に対する財政的・規制的支援を提供し、テクノロジー企業に新たなデータセンターの建設を促している。ドラックス社は、地域の広域自治体およびヨーク大学と共同で入札を行っている。これが成功すれば、将来ドラックス社により、現在燃やしている以上の木材が燃やされる可能性がある。

2024年、英国で行われた新たなドラックス社への補助金に反対する抗議行動。写真提供:@CrispinHughes