木質バイオマス発電事業を行う大手商社、電力・ガス会社のCDP回答~約半数が適切な排出報告をせず

企業の環境評価を行う非営利団体CDPの「CDP気候変動質問書2024」では、バイオマスの燃焼によるCO2排出量の報告を求めていますが、木質バイオマス発電や石炭バイオマス混焼発電を行なっている日本の大手17社の回答状況を調査したところ、8社が「バイオマスの燃焼によるCO2排出はゼロ」と回答していることが分かりました。
石炭より多い木質バイオマスの燃焼時のCO2排出~CDPでは報告を求める
バイオマス発電はカーボンニュートラルであるとして、国内では再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)によって推進されてきましたが、木質バイオマス(木材)を燃やした際のCO2排出量は、石炭火力よりも多いというのは科学的な事実になっています。
この燃焼時のCO2排出について、企業の国際的な炭素会計基準であるGHGプロトコルや、GHGプロトコルを基準として採用したSBT(Science-Based Targets:科学的根拠に基づく目標)では、算定・報告が求められています。同様に、CDP気候変動質問書においても、バイオマスの燃焼によるCO2排出量の報告を求めています。
しかし、CDPへの回答を分析すると適切に報告をしていない企業も散見されます。CDPのデータを利用する署名金融機関は、CDPの質問書・回答ガイダンスを理解することで、企業の報告状況を適切に評価できます。
分析内容について
昨年実施した「CDP気候変動質問書2023」の調査で対象とした18社のうち、2025年1月時点で発電所が一つも操業していない1社を除いた17社の回答を分析しました。(※個別企業名はCDPの規約により、今年度は非公表)
今回分析対象としたバイオマスの燃焼由来CO2に関するCDPの質問は下記のとおりです。*は回答ガイダンスにおける補足説明を示しています。
- (Q7.12) 生物起源炭素由来のCO2排出は貴社に関連しますか?
(*企業は、バイオマス燃料の燃焼が組織に関連する場合、「はい」と答えなければならない。)
- (Q7.12.1) 貴社に関連する生物起源炭素からの排出量をCO2換算トン単位で記入してください。
(*バイオマス燃料の燃焼によるCO2排出は、この質問で報告されなければならない。)
- (Q7.30.7) 貴社が消費した燃料の量(原料を除く)を燃料の種類別にMWh単位で示してください。
(*バイオマス燃料の消費量についてのデータは、この質問で報告されなければならない(単位はMWh)。その際、バイオマス燃料が持続可能か否かで、分けなければならない。)
17社中8社が、バイオマスの燃焼によるCO2排出量を回答せず

17社の内、11社が「生物起源炭素由来のCO2排出は貴社に関連しますか?」(Q7.12)に「はい」と回答しました。昨年の8社から3社増えました。CDPのガイドラインでは、企業はバイオマス燃料の燃焼が組織に関連する場合、「はい」と答えなければなりません。この1年で、バイオマス燃焼由来CO2の算定・報告の必要性について、事業者の間で認識が広まっていると言えるが、未だ「いいえ」と答えている企業が6社に上ります。
上記の(質問Q7.12)に「はい」と回答した11社の内、9社が生物起源炭素からの排出量をCO2換算トン単位で回答(Q7.12.1)しました。
なお、J社が回答した燃焼によるCO2排出量はわずかですが、J社は大規模な石炭バイオマス混焼発電所を複数操業する大手発電事業者であることを考えると、数値の妥当性には疑問が残ります。
17社中4社は、バイオマス燃料を消費しているにも関わらず、燃焼によるCO2排出をゼロと認識、または、大幅に過小評価している可能性がある企業です。I社とK社は、バイオマスの燃焼によるCO2の存在を認識しているが、それをゼロと算定していることになります。
まとめ~金融機関は正しく回答ルールの理解し、事業者は適切な開示を
CDPデータを利用する署名金融機関は、データの分析を通して、バイオマスによる排出量を適切に開示していない企業を判断できます。
金融機関は、バイオマス燃焼によるCO2排出について正しく理解し、事業者に対して適切な開示を求めると同時に、排出削減効果のないバイオマス発電事業の見直しを求めていく必要があります。
執筆者プロフィール
鈴嶋克太(地球・人間環境フォーラム)
2021年から地球・人間環境フォーラム。バイオマス発電の問題について、海外NGOとのリレーション構築、金融機関やメディアへの情報提供を担当。
参考情報
【プレスリリース】木質バイオマス発電事業を行う大手18社のCDPへの回答を調査〜大手商社、電力・ガス会社ら多数の企業が規定に反し、バイオマス燃焼によるCO2排出を報告せず〜
本記事はCDPから提供された回答データを基に作成しました。