
経済産業省は2025年2月に2026年度以降のFIT/FIP制度で、1万kW以上の一般木質バイオマス(輸入燃料中心)と液体燃料による発電の新規認定を行わないと決めました。しかし、既に認定された木質バイオマス発電所は補助金での支援が継続します。
経産省の提案の前提となる議論
経済産業省の「調達価格算定委員会」は2024年度、バイオマス発電へのFIT/FIP制度での支援が適切かどうかについて検討を行い、以下の状況が確認されました。
- バイオマス発電のコストの大半が燃料費であり、将来的な自立が見通しづらいこと
- 国際市場の価格変動や円安により一般木質(1万㎾以上)と液体燃料の新規案件形成は進まないこと
- 2022年以降、入札件数ゼロが続いていること
- 需給調整市場や容量市場の活用でFIT/FIP制度に寄らず収益を上げることが期待されること
また委員会ではFIT/FIP制度の支援終了後について議論が行われ、輸入燃料に依存する大規模バイオマス発電所は「他の再エネと比較して再エネ電源としての自立化が相対的に難しい」ことが確認されました。さらに、「FIT支援終了後に(化石燃料による)火力発電所へ転換することや事業廃止に至ることを抑制する必要」「バイオマス比率の維持を指導」なども議論されました。
矛盾する「再エネとしてのバイオマス発電」への支援
上記の調達価格算定委員会での議論には、FIT/FIPで再エネを支援する目的の観点から複数の矛盾が含まれています。
まず、FIT/FIPの目的は、再エネの普及に必要な初期投資部分をFIT賦課金で支援することで、再エネを普及させ、日本のエネルギー自給率向上や地球温暖化対策に貢献することです。太陽光、風力、水力、地熱などバイオマス以外の発電方式では燃料を必要とせず、設備投資が終われば発電コストは低く抑えることが可能です。
一方、経産省が委員会の議論で確認したように、「バイオマス発電のコストの大半が燃料費であり、将来的な自立が見通しづらい」。つまり燃料を調達し続けなければバイオマスによる発電は不可能であり、それを輸入に依存していては、エネルギー自給にはつながりません。
経産省の方針転換の主なポイント
経産省は、2026年度以降のFIT/FIPの新規認定をしないこと提案しました。しかし、既存の認定バイオマス発電所に関するFIT/FIPの支援変更には触れていません。
2018年にFITによるバイオマス発電が入札制に変更されて以降、実際には一般木質発電所(1万㎾以上)の新規認定は1件に留まり、2022年以降は新規の認定案件は存在しません。一方で、2018年までにFIT/FIP認定済みのバイオマス発電所のうち、輸入燃料に依存する一般木質(1万㎾以上)と液体燃料の合計は、179件650万kWに上り、これは2030年エネルギーミックスのバイオマス発電水準(800万㎾)の82%に及びます。
そのため、既認定でこれから新たに運転開始する大型バイオマス発電所もあることから、日本のFIT/FIP制度下で燃やされる輸入バイオマス燃料(2024年度実績:木質ペレット638万トン、パーム核殻608万トン)は今後さらに増加する見込みで、FIT/FIPによる買取期間の20年間が終了するまで、引き続き輸入・燃焼されることになります。
まとめ
輸入木質バイオマス発電は、再エネとして自立することができずに、将来「化石燃料による火力への転換(回帰)」や「事業廃止」が懸念されます。エネルギー自給にもつながらなず、消費者が再エネを支えるために負担している貴重な賦課金を20年間も使い続けることになります。
果たしてこの仕組みを維持することに合理性はあるのでしょうか? ましてや「バイオマス比率の維持を指導」することの意義はどこにあるのでしょうか。新規だけでなく既認定の大型バイオマス発電所についても、持続可能性、エネルギー自給、賦課金の海外流出の観点から早急に見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。
執筆者プロフィール
飯沼佐代子(地球・人間環境フォーラム)
2008年から地球・人間環境フォーラム。木材・パーム油のサプライチェーン改善を主に調査と政策提言活動に取り組み、2016年からバイオマス発電の問題に携わる。海外の主な生産地(ベトナム、カナダ、米国、インドネシア)を訪問し、現地NGOとのネットワーク構築と課題の把握に努めている。
参考情報URL:
調達価格算定委員会(2025年2月3日)「令和7年度以降の調達価格等に関する意見」のp77-93「5.バイオマス発電」https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/20250203_1.pdf
https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/20250203_1.pdf