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大手金融機関11社の「木質バイオマス発電」投融資方針を比較・評価 ~支援条件厳格化の動きが広がる一方、課題も

カナダBC州の伐採跡地 ©Kenji Ito
カナダBC州の伐採跡地 ©Kenji Ito

日本の金融機関で木質バイオマス発電について支援条件を厳格化する動きが広がっています。一方、大手11社の方針を環境団体が比較・評価した結果、多くの課題が明らかになりました。今後、どのような対応が求められるのでしょうか?

2024年春、日本の3メガ銀行は自社のサステナビリティ方針に、木質バイオマス発電に関する項目を加えました。その後、同年12月に三井住友トラストグループも追随し、今年4月には三菱UFJフィナンシャルグループが方針を改訂しています。この間、大手生命保険会社や損害保険会社の一部でも方針の策定が見られます。

木質バイオマス発電が政府による支援の対象であるにもかかわらず、金融機関がその課題を認識し、投融資に当たってリスク評価を行う姿勢を示し始めたと言えます。
しかし、2025年6月に環境NGO6団体が行った大手金融機関11社(銀行4社、生保・損保7社)の「木質バイオマス発電」投融資方針に関する評価では、以下のような問題が浮き彫りとなりました。

今後、方針未策定の大手生保・損保には早期の策定が求められる一方、方針を導入済みの大手銀行等では、方針の適用が新規案件に限定されていること、GHG(温室効果ガス)排出量においてバイオマスの燃焼由来のCO2を考慮に入れていないことなど、多くの課題が残っています。下記の評価項目に従って方針を強化し、新規・拡張・更新案件については支援を停止することが求められると言えるでしょう。

評価結果概要

評価対象金融機関一覧

  • 銀行:三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFJ)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三井住友トラストグループ(SMTB)
  • 生命保険会社:明治安田生命保険相互会社(明治安田)、第一生命保険株式会社(第一生命)、日本生命保険相互会社(日本生命)、住友生命保険相互会社(住友生命)
  • 損害保険会社:MS&ADホールディングス(MS&AD)、東京海上ホールディングス(東京海上)SOMPOホールディングス(SOMPO)

表‗木質バイオマス投融資方針‗銀行
表‗木質バイオマス発電投融資方針‗生保・損保

※「記載はあるが不十分な場合」:設問4、8、9に関して、「当該記載が在る」或いは「考慮すべきリスクに挙げられている」が、「『取引先の対応状況を評価して判断する』としている場合」又は「支援の条件として明確に除外を求めていない場合」など

各金融機関の方針の主な課題

主な課題は以下です。

課題①方針の適用が新規案件に限定されていること

日本では2022年以降は輸入木質バイオマス発電所の新規のFIT認定は存在しないため、各社の方針に実効性を持たせるには、既存の支援先に対して燃料の新規調達時に方針の遵守を求めていく等の対応が必要です。 

課題②バイオマス燃焼由来のCO2を考慮に入れていない

銀行4社と日本生命の方針では、ライフサイクルGHG排出量について言及していますが、いずれも、バイオマスの燃焼によるCO2排出は考慮していません。
これはFITのガイドラインにおいて、バイオマス燃焼によるCO2をゼロと見なしていることが背景にあります。しかし、企業の国際的な炭素会計基準である「GHGプロトコル」では、スコープ1~3とは別に算定・報告することが求められています。また、サステナブル投資を標榜する投資家の世界的なネットワーク「PRI」による、欧州(EU)のバイオエネルギー政策を分析したレポートでも、加工・輸送時だけでなく、燃焼時のCO2を含めて排出量を評価することを提言しています。
日本の金融機関も、GHGプロトコルに則った算定・報告を事業者に求め、燃焼によるCO2排出量を含めて評価した上で排出削減効果の無いバイオマス発電事業の投融資・保険引き受けについては、化石燃料発電同様のフェーズアウト計画を策定することが望まれます。

課題③バイオマス石炭混焼発電が除外されていない

加盟企業の再エネ電力調達を促すイニシアチブ「RE100」では、2025年4月の技術要件改定で、石炭バイオマス混焼の電力の使用を禁止しましたが、背景には、混焼分の電気を再エネとして認めることで、石炭火力発電の延命を助長するという懸念がありました。
SMBCとSMTBの方針では、バイオマス石炭混焼発電も対象に含まれていますが、いずれも条件付きの投融資を許容する内容である点に注意が必要です。SMTBの方針では、石炭火力発電のバイオマス混焼化が「脱炭素化に向けたトランジション」と肯定的に認識されおり、脱・石炭火力の足かせとなることが懸念されます。
今後は、各社、バイオマスと石炭の混焼発電を支援対象から除外することが求められます。

執筆者プロフィール

鈴嶋克太(地球・人間環境フォーラム) 
2021年から地球・人間環境フォーラム。バイオマス発電の問題について、海外NGOとのリレーション構築、金融機関やメディアへの情報提供を担当。 
参考情報URL:脚注及び下記
本評価の詳細な解説は下記
【プレスリリース】大手金融機関11社の「木質バイオマス発電」投融資方針を環境団体が比較・評価~支援条件厳格化の広がりを評価する一方、課題が明らかに 今後、求められる「既存案件への適用」と「燃焼由来CO2の考慮」(2025年 6 月25日)
https://www.gef.or.jp/news/info/250624biomasspolicy/